部下に取り組んでほしい業務があるとき、どう伝えていますか。
「これをやってほしい」と直接伝える方法もあります。
ただ、それで人が動くかどうかは別の話です。
思ったように進まないと、進捗を確認したり、
「いつやる?」と声をかけたりします。
それでも、なかなか進まない。
そこで私は、意識的に別のアプローチを使うようにしました。
すると後輩が、自分でアイデアを出して動いてくれる場面が増えました。
今回は、そのとき私が何を意識していたのかを整理したいと思います。
人は押し付けられると動かない
仕事を誰かにお願いする時、「これをやってください」と伝えるのは早い方法に見えます。
実際にそうしていることが多いと思います。
ただ、指示された側はどう感じるでしょうか。
「やらされている」という感覚が生まれると、人は最低限しか動きません。
言われたことだけをこなして終わる。
それ以上の工夫やアイデアは出てきにくい。
逆に「自分で決めた」という感覚があると、人は主体的に動きます。
心理学では「自己決定理論」と呼ばれる考え方で、
人は自分で選んだと感じる時に最もモチベーションが上がると言われています。
手品師が使う「フォーシング」というテクニック
マジシャンが使うテクニックに「フォーシング」というものがあります。
観客に「自由に選んでください」と言いながら、実は特定のカードを選ばせる技術です。
観客は自分の意志で選んだと感じています。
しかし実際には、マジシャンが誘導した結果です。
これはマネジメントでも応用できます。
相手に「自分で選んだ」と感じてもらいながら、こちらが取り組んでほしい方向に自然に誘導する。
押し付けではなく、相手の自己決定感を引き出す方法です。
自分で選ぶと、やり遂げようとする
フォーシングが効果的なのは、選ばせる瞬間だけではありません。
心理学に「認知的不協和」という概念があります。
人は、自分の行動と考えが矛盾する状態を嫌う、という性質です。
たとえば、一度「自分はこれをやる」と言ったのに実際にやっていないと、
どこかモヤモヤが残ります。
「自分で選んだ」という事実があると、
途中でやめることは「自分で決めたのにやめた」という矛盾になります。
その矛盾を避けようとする心理が働いて、最後までやり遂げようとする。
つまり、フォーシングで「自分で選んだ」という感覚を作ることで、
その後の行動も引き出せます。
選ばせる→やり遂げようとする、という二段構えになっているのです。
実際にやったこと
実際の場面で、「自分で選んだ」と感じてもらう形を試してみました。
看護師の後輩に、スタッフ向けの勉強会をお願いしたい場面があったときです。
そのときは、直接「これをやってほしい」と伝えるのではなく、
相談という形で話しかけました。
「AとBのどちらのやり方がいいと思う?」と聞いて、まず相手の意見を引き出す。
相手が選んだやり方が出てきたら、
次に「じゃあ、どう進めるといいと思う?」と聞いて、
具体のアイデアまで一緒に出してもらいました。
ここで私が意識したのは、相手の発想をそのまま肯定することでした。
「それわかりやすい。その発想はなかった」と返す。
すると相手が、さらにアイデアを足してくれ、
その流れで「じゃあ、それで一度やってみない?」と任せました。
結果、後輩は自分でさらにアイデアを足しながら準備を進めてくれました。
私が意識したのは2つです。
一つは、選択肢を出して相手に選んでもらうこと。
もう一つは、出てきたアイデアを「発想ごと」肯定して、
相手から次のアイデアが出やすい空気を作ることです。
この2つが揃うと、「自分で決めた」という感覚が生まれます。
そしてその感覚が、認知的不協和によってその後の行動を支えやすくなるのだと思います。
注意点
これは相手を操作するためのものではなく、相手が動きやすい形に整えるための工夫だと思っています。
だから、提示する選択肢はどちらを選んでも
問題なく実行できるものにする必要があります。
相手にとって不利な選択肢をダミーとして混ぜると、信頼関係を損ないます。
あくまでも「相手が主体的に動けるか」を優先することが前提です。
また、選ばせたあとに
「やっぱりこっちにして」と訂正するのも避けた方がいいと思います。
自分で選んだ感覚が薄れてしまうからです。
まとめ
人に動いてもらいたい時、まず「自分で選んでもらえるか」を考えてみてください。
「どちらがいいと思う?」という一言から始める。
答えが返ってきたら、その発想を肯定して、一緒に具体を詰める。
それだけで、指示とは違う動き方が生まれます。
そして、自分で選んだ人は、自分でやり遂げようとします。
「自分で決めたのにやめたくない」という気持ちが、行動を支えるからです。
まずは次に仕事をお願いするとき、一度だけ試してみてください。
その後の動き方が、指示だけのときと変わってくるはずです。


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