以前、病院で働いていた頃、新人の指導をしていた時の話です。
その新人は行動に移すのが早く、説明の途中でもすぐに動き始めるタイプでした。
しかし病院という場では慎重さが求められる場面も多く、その素質をいい方向に活かす関わり方ができていませんでした。
できていないことへの指摘が中心になり、その新人はミスが増え、元気もなくなっていきました。
今思うと、本人の素質を悪い方向に見てしまっていて、強みとして活かす関わり方ができていなかったのだと思います。
マネージャーの関わり方次第で、メンバーのパフォーマンスは上がりも下がりもします。
今回は、心理学で言う「ピグマリオン効果」と「ゴーレム効果」を手がかりに、そのことを整理します。
期待はパフォーマンスを上げも下げもする
心理学に「ピグマリオン効果」という概念があります。
人は他者から期待されると、その期待に応えようとしてパフォーマンスが上がる、という現象です。
逆が「ゴーレム効果」です。
期待されない、あるいは否定的な目で見られると、パフォーマンスが下がる。
ピグマリオン効果とゴーレム効果が示しているのは、
期待のかけ方が相手の行動を変え、成果にも影響するということです。
期待されていると感じると、
「自分はできるかもしれない」という前提で動けます。
相談しやすくなったり、確認を丁寧にしたり、期待に応えようと工夫したりする。
逆に、否定的な関わりが続くと、
「どうせ自分はダメなんだ」という前提になりやすい。
すると萎縮して、相談が減ったり、ミスを恐れて動けなくなる。
その積み重ねが、ミスの出方や仕事の質に影響します。
結果として、成果そのものが変わってきます。
つまり、相手の能力の問題というより、
周囲からどう見られ、どう扱われているかが行動に影響している。
マネージャーの関わり方ひとつで、メンバーの動き方は変わります。
指摘が増えるほど、強みは潰れやすい
現場では、ミスを減らすことが重要です。
医療は「安全」が最優先なので、できていないところに目が向くのは自然だと思います。
例えば新人に対して、
• 記録が抜けている
• 物品の準備が抜けている
• 報告が遅い
こういう点は、放置できません。
ただ、指摘が続くと本人の受け取り方が変わっていきます。
「また何か言われるかもしれない」
「自分はできていない」
そうなると、慎重になるというより「怖さ」が先に立ちます。
迷って止まったり、確認や報告が怖くなって声をかけづらくなる。
その結果、自己判断で進めてしまってミスにつながることもあります。
ミスを減らしたくて言っているのに、逆方向に働くことがあります。
そしてもう一つやっかいなのは、元々の素質まで欠点扱いになってしまうことです。
行動が早い人は「慎重さに欠ける」に見える。
慎重な人は「動きが遅い」に見える。
本当は強みにもなり得る部分が、指摘が続くことで「欠点」としてみなされていきます。
周りも本人も「そういうタイプだ」と捉え始めると、萎縮しやすくなっていきます。
こうなると、ゴーレム効果が起きやすい状態になります。
関わり方を変えたら、後輩の動き方が変わった
以前の自分の指導は、どうしても「できていないこと」に目が向きがちでした。
安全のために必要な指摘だと思っていましたし、実際に必要な場面もあります。
今、訪問看護で関わっている後輩がいます。
その後輩との関わりの中で、最近は意識していることがあります。
それは、「できていること」を先に言葉にすることです。
ミスが減ってきたこと。
積極的に仕事を進めてくれていること。
そうした部分を、「助かった」「ありがとう」と感謝で伝えるだけでなく、
「丁寧になったね」「動きが早くなったね」とそのまま言葉にして伝えるようにしました。
それに加えて、「期待している」ということも伝えるようにしています。
後輩は「そんなことないですよ」と言いながらも、
以前より自分から動いてくれる場面が増えました。
期待を言葉にして伝えることは、相手の行動や仕事の質に影響を与えます。
これがピグマリオン効果なのだと思います。
今日からできること
まず一つ試すなら、今日関わるメンバーの「できていること」を一つ見つけて、言葉にして伝えてみてください。
ポイントは、結果よりも行動や姿勢に目を向けることです。
例えば、
• 「ミスが減ったね」ではなく「丁寧に確認するようになったね」
• 「成果が出たね」ではなく「積極的に動いてくれているね」
• 「助かった」だけで終わらせず「どこが助かったのか」を言葉にする
できていないことを指摘することが必要な場面はあります。
でもその前に、何ができているかを一度確認するだけで、関わり方の質は変わります。
こうした関わり方がなぜ効くのかは、自己決定理論(有能感など)の視点でも整理できます。気になる方はこちらもどうぞ。

まとめ
ピグマリオン効果とゴーレム効果が示しているのは、
期待のかけ方が相手の行動を変え、成果にも影響するということです。
指摘が必要な場面はあります。
ただ、指摘ばかりになると、素質まで「欠点」として固定されやすくなり、相手は萎縮していきます。
だからこそ、まずは「できていること」を一つ見つけて、言葉にして伝える。
それだけでも、関わり方は変わります。
今日関わるメンバーの「できていること」を一つ。
まずそれを言葉にしてみてください。

コメント